こども音楽フェスティバル 2025 初日レポート

フェスティバル初日、5月3日(土・祝)の様子をレポートします!
◆いよいよ開幕! カラヤン広場も大賑わい
5月3日(土・祝)の『こども音楽フェスティバル 2025』初日。晴れ渡った青空のもと、サントリーホール前のアーク・カラヤン広場には各種ブースや屋外ステージが設置され、多くのファミリーで賑わいを見せていました。
なかでも早くから行列ができていたのが、ピアニストの角野隼斗さんが全国ツアーで使用した「かてぃんピアノ」と呼ばれるアップライトピアノ。こどもたちが思いおもいの曲を演奏し、日頃の練習の成果を披露していました。また、ソニーのブースでは「だれもが楽しめる音楽フェスティバル」を実現するためのインクルーシブな取り組みに関する展示や体験、ワークショップが行なわれていました。
12時になると大ホールの前に、公式アンバサダー/配信総合パーソナリティの清塚信也さんと、パートナー・パーソナリティの高見侑里さんが登場。いよいよ開幕する『こども音楽フェスティバル 2025』の紹介をしたあと、清塚さんを師と仰ぐ西村ヒロチョさんにバトンタッチして、おふたりは出演する最初の公演へと向かいます。
◆オープニング・ガラ・コンサート ~LOVE クラシック!~
大ホールで開催された「オープニング・ガラ・コンサート ~LOVE クラシック!~」は、今年のフェスティバルに出演するアーティストたちが一堂に会した盛りだくさんのコンサート。最初にオルガンの前にこぱんだウインズのメンバーが並び、ファンファーレ(前久保 諒「Welcome to PANDA!」)を演奏してフェスティバルの開幕を高らかに知らせます。
- Ⓒ池上直哉/SUNTORY HALL
清塚さんと高見さんの司会で、次々登場する出演者とのトークをまじえながら進行していくコンサートでは、それぞれに「あなたにとってのLOVE クラシックはなんですか?」という質問が投げかけられます。「LOVE吹奏楽」「LOVEヴァイオリン」といった答えとともに、アーティスト自身の言葉で音楽との出会いや音楽愛が語られたのが印象的でした。
ファンファーレのあとは、清塚さんによるピアノ・ソロ。トークの間はわさわさしていた会場が、演奏がはじまると同時にすっと静まりかえります。ショパンの名曲メドレーの合間に「大きな古時計」のメロディが入ると、客席のこどもたちもすかさず反応。ステージと客席が会話しているように見えた瞬間でした。
続いては、こぱんだウインズによる「ガーシュイン・イン・ブラス!!! 3」(黒川圭一 編曲)。トランペット×2、ホルン、トロンボーン、ユーフォニアム、テューバによる金管六重奏ですが、それぞれの楽器がメロディを吹いたり、伴奏のリズムやベースを吹いたり、それが入れ替わったり。ジャズのテイストも入って、同じ楽器でもクラシックのオーケストラとは違う表情で、吹奏楽ならではの楽しみを見つけることができました。
- ⒸNaoya Ikegami/SUNTORY HALL
「まろ」の愛称で親しまれるヴァイオリニストの篠崎史紀さんが、ピアニストの入江一雄さんとのデュオで、クライスラーの「美しきロスマリン」を演奏するや、会場は一気にウィーンの優雅なカフェに。レハールの「メリー・ウィドウ・ワルツ」では、聴き慣れたメロディも、日本を代表する名匠による演奏で聴くとこんなにも滋味深く、魅力的に聞こえるんだとあらためて感じました。
音楽家と医師というふたつの夢を叶えた石上真由子さんがリーダーを務める「フェスティバル・スペシャル・アンサンブル」は、このフェスティバルのために特別編成された弦楽合奏団。グリーグの組曲『ホルベアの時代から』より「前奏曲」、ソプラノの鷲尾麻衣さんを迎えてのビゼー(三浦秀秋 編曲)のオペラ『カルメン』より「ハバネラ」、そしてフルートの多久潤一朗さんとの共演によるバレエ組曲『ガイーヌ』より「剣の舞」で息の合ったアンサンブルを聴かせてくれました。
なかでも、フルートのみならず、穴の開いたものならなんでも吹いてしまう多久さんのステージは大盛り上がり! ちくわ、空き瓶、コップ、けん玉、スプーン、そしてトイレで使うスッポン(ラバーカップ)まで見事に吹きこなしてしまう凄技に、会場からは「うおおおおお」というどよめきと拍手が巻き起こりました。
ラストはオルガンの石丸由佳さんによるJ.S.バッハの「幻想曲 ハ長調 BWV 570」で荘厳に締めくくり。5,898本ものパイプからできているサントリーホールのオルガンの、オーケストラにも負けない迫力と多彩な音色に圧倒されました。
アンコールには全員が揃ってヨハン・シュトラウスI世の「ラデツキー行進曲」。会場の手拍子も参加してのアンサンブルとなりました。「LOVE クラシック」をテーマにしたオープニングコンサートで、あらためて「音楽っていいな」と感じた方も多いのではないでしょうか。
◆不思議の国の音楽会 ~アリスとめぐるうたの世界~
ブルーローズ(小ホール)で開催された「不思議の国の音楽会 ~アリスとめぐるうたの世界~」は、本フェスティバルで唯一、歌にフォーカスしたコンサート。子役の池村碧彩さん演じるアリスは、ひょんなことから不思議の国へ。テノールの鳥尾匠海さん演じる白うさぎを追いかけながら、アリスと観客はオペラの世界を冒険します。
- ⒸMichiharu Okubo/SUNTORY HALL
『カルメン』の闘牛士(大山大輔)から拍手や「Bravo!」の掛け声を教わったり、『セビリャの理髪師』のロジーナ(林眞暎)の恋心を味わったり……。鳥刺しパパゲーノが歌う「フニクリ・フニクラ」に、まさかの白うさぎが乱入して始まる「おにのパンツ」には会場も大爆笑! 怒りに震える『魔笛』夜の女王(梅津碧)のアリアも見事でした。
- ⒸMichiharu Okubo/SUNTORY HALL
- ⒸMichiharu Okubo/SUNTORY HALL
- ⒸMichiharu Okubo/SUNTORY HALL
最後はパッヘルベルの「カノン」に基づいた橋本祥路の「遠い日の歌」で締めくくり。池村さんとオペラ歌手たちの歌声、そして石野真穂さんのピアノがひとつに。アンコールには、武満徹「小さな空」の、美しくもせつない四重奏。大人も「Bravo!」「Brava!」と声を上げたくなる、楽しいステージでした。
- ⒸMichiharu Okubo/SUNTORY HALL
◆ピアノで聴く『のだめカンタービレ』BEST
初日最後の公演は、大ホールの「ピアノで聴く『のだめカンタービレ』BEST」。2階席までたくさんの人で埋まった賑やかな雰囲気のなか、照明が落ちるとピアニストのBudoさんが手を振りながら登場! ショパンの「幻想即興曲」を軽やかに披露します。
Budoさんのショパンでピアノの世界へと引き込まれた観客の前に、石井琢磨さん、菊池亮太さん、ござさんが登場。4人で会場と配信の視聴者に挨拶してから、石井さんのソロへ。『のだめカンタービレ』で千秋とのだめの出会いを印象づけたベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番「悲愴」より第2楽章がしっとりとホールに沁み渡ります。
- ⒸMichiharu Okubo/SUNTORY HALL
- ⒸMichiharu Okubo/SUNTORY HALL
千秋とのだめの出会いといえば、もうひとつ忘れてはならない楽曲があります。そう、モーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ」です。石井さんとBudoさんいわく、2台ピアノの醍醐味は「音で対話すること」。その言葉の通り、ふたりのアンサンブルはぴったりで、転がるような掛け合いが楽しい時間になりました。
その後は、ござさんと菊池亮太さん、ふたりのソロと二重奏が続きます。ござさんが演奏するベートーヴェンの交響曲第7番のハイライトは、『のだめカンタービレ』のオープニング映像が目に浮かぶよう。ピアノからオーケストラの色彩感がぐんぐん伝わってきます。菊池さんはリストの「メフィスト・ワルツ」をはじめとした難曲たちを、なんと即興でメドレーに! ガーシュウィン、ショパン、サン=サーンス……聴く人みんなに『のだめ』の名シーンを思い出させてくれました。
ござさんと菊池さんの2台ピアノでは、ストラヴィンスキー『ペトルーシュカ』と冨田勲「きょうの料理」のテーマ。足踏みからスタートして、どんどんヒートアップしていくふたり。のだめがコンクールのファイナルで陥った、あのカオスでちょっとおかしな場面が再現されるようで、会場からも笑い声が漏れていました。
- ⒸMichiharu Okubo/SUNTORY HALL
そしてラストを飾るのは、4人のピアニストが揃うラヴェルの「ボレロ」。舞台転換の合間には、まとめ役の石井さんの進行で4人が和やかなトークを繰り広げます。今回の「ボレロ」は石井さんの合図でクライマックスへと向かうとのこと。果たしてうまくいくのでしょうか?!
菊池さんがピアノのボディを叩いて、「ボレロ」のあのリズムを刻み始めると、ひとり、またひとりと音を乗せていきます。お互いに聴き合いながら、少ない音数で対話しているのが伝わってきます。「どこから何が飛び出すかわかりません」という菊池さんの言葉通り、4人の音楽が炸裂! そして、石井さんが右手を上げると、4人がぴったり息を揃えてフィナーレへ。
- ⒸNaoya Ikegami/SUNTORY HALL
熱演の末、お互いを讃え合う4人のピアニストたち。会場は大きな拍手と掛け声で満たされました。アンコールは4人の「リベルタンゴ」。最後の一音まで切れ味鋭い演奏。身を乗り出して聴き入る子どもたちや、目を閉じて音楽を堪能する大人たち。出演者も観客も、思い思いに音楽と、『のだめ』の思い出を味わう時間でした。
- ⒸMichiharu Okubo/SUNTORY HALL
「ピアノで聴く『のだめカンタービレ』BEST」はアーカイブ配信でも視聴できますので、会場に行けなかった方も、コンサートの余韻を味わいたい方も、ぜひ配信でお楽しみください。
取材・文/原 典子・加藤綾子